2024年good job:ジョブ型では下町ロケットは飛ばせない?

近年「ジョブ型雇用」なる採用(雇用)の手法に注目が集まり、大手企業の中にはジョブ型人事への移行を華々しく打ち出したところもあるようです。ジョブ型雇用とは、労働政策研究・研修機構の濱口桂一郎氏が提唱した、欧米型の雇用システムのことであり、日本型のそれは「メンバーシップ型」として定式化され、対比されます。ジョブ型雇用の場合、求められる職務の内容はあらかじめ詳細に明示され、その要求に合致する者のみが雇用契約により採用されます。一方メンバーシップ型の場合、職務の内容は明示されず、その会社の「一員」となる事こそが採用の本質となります。
経団連の提言や一部マスコミの論調などもあり、日本経済新聞の調査(2022.5)では大手企業の約2割でジョブ型が導入or導入予定されています(「予定無し」は6.5割)。ジョブ型は経済環境の変化に対応でき、人材の多様性や専門性、意欲を高めるために有効、などと理解され、従来の日本型雇用システムへの不満足感とも相俟って、特に大手企業では一定の支持を集
めつつあるようです。
しかし労働市場全般に目を向け、特に被雇用者の7割がそこで働く中小企業の世界に目を向けると、違った風景が見えてきます。
池井戸潤の小説を原作とするTVドラマ「下町ロケット」は、東京大田区の町工場がロケット部品の製造にチャレンジする物語です。社員が知恵と力を出し合い、数々の困難を克服していく様は視聴者の共感を集め、高視聴率を記録しました。今またNHK朝の連続TV小説では、東大阪の町工場を舞台に、ヒロインは航空機用の高精度のネジの試作に取り組みます。確かな腕
を持つ熟練の職人さん、一度は整理解雇されながらも戻ってきた若手、仕事より化粧と合コンが優先だった事務職の女の子、ヒロインをとりまく様々な社員が個性を生かし、やがて夢の実現に向け全社一丸となって難題を解決していきます。
架空のドラマ上の話、と侮ること無かれ。朝ドラの企画に当たりスタッフは実際に現場に取材し考証にも大きなエネルギーを注ぐそうです。下町ロケットも作者の銀行員時代の経験に裏打ちされた物語です。何よりもこうした佃製作所やIWAKURAでの従業員の姿が視聴者の共感を呼ぶ(であろうと制作者側が確信している)事に意味があると思います。
ジョブ型雇用を突き詰めれば、「会社は会社、私は私」という欧米型の個人主義がその根底にあり、会社とは「職務」という契約のみをもって繋がるやり方です。一方メンバーシップ型雇用では職務内容は詳細に規定されてはいないので、まさに会社という全体と「一員」としての自己との関係性が会社との接点になります。(それを同調圧力と見るか、自分らしさの発現の
機会と見るかは各々の考え方でしょうが。)
ジョブ型で下町ロケットを飛ばそうと思ったら、その都度職務記述書を書き換えて、スキルのある社員を獲得しなければなりません。それは、中小企業では(大企業でも?)不可能でしょう。結局のところ今日でも脈々と続いている日本的働き方を、今後どう生かしていくのか、そんな風に考えてみるのも意味ある事ではないでしょうか。