世界は今、再び分断の時代へと突入しています。ウクライナしかり、パレスチナしかり。アメリカでも政治と民衆の双方が分断され、混沌とした状況が続いています。更にパンデミックや気候変動、災害などの危機に人びとは翻弄されています。何とも先行き不安な時代になってしまいました。
しかし私は望みはあると思っています。そのヒントは日本にあります。日本には古来「和を以て貴しと為す」「三方よし」などとする、協調・助け合いの世界観が根強くありました。世界を震撼させたコロナ禍への対応でも、今振り返ってみると、多くの人が協力して比較的うまく対応出来たと思います。「政治と金」の問題が連日報じられ、政治不信(あきらめ?)も根深いものの、独裁者が戦争を始めたり、侵攻カードで隣国を威嚇したり、ミサイルをぶっ放すような事はありません。東日本や今回の能登など、大災害にあたっても、人びとは助け合い真摯に生活に向き合っています。海外のような大規模な略奪事例は皆無です。羽田の事故でも、乗客は冷静に指示に従い、乗務員は訓練の成果を最大限に発揮し、かつ自分自身の的確な判断でドアを開け、多くの人びとの命が救われました。
こうした日本人の強みは、皆さんが今直面している日本の労働社会の中にも、脈々と根付いているのではないでしょうか。それは経営者と従業員がどういった関係にあるかという点にあります。人的資源管理が専門の守島基博教授は、著書『全員戦力化』において、企業社会における人材マネジメントに関し、「働きやすさ」と「働きがい」の両方に関心が高まっているとし、その双方に企業が組織的に取り組むことの重要性を指摘しています。ここで、働きがいとは「人を前に押し出す力」であり、働きやすさとは「それを取り除くこと」です。その2つの推進には、雇用の長期性を前提に、働く人を経営のパートナーととらえ、経営者と従業員が協働して作り上げていくのが重要とされます。
同様のことは、別の論者からも唱えられています。経営学者の岩尾俊兵教授はその著書『日本企業はなぜ「強み」を捨てるのか』において、日本式経営の強みの特徴として「①人間が価値創造の主役だと考えて、②経営知識と経営意識を組織内で共有する」の2点を挙げています。
これは簡単に言うと、従業員と経営者が協力して経営にあたるのが大きな強みだ、ということです。こうみてくると、これらで言われていることは「あたりまえ」の事ですよね。内部に争いの絶えない会社やコミュニケーションの断絶した企業に将来はない、なんて誰でもわかる事でしょう。
コンピュータサイエンスの世界は、情報を0と1、つまりスイッチのオンとオフに置き換えて処理する事により、飛躍的に進歩しました。ところが今、「ゼロでもあり1でもある」という不思議な関係を基にした量子コンピュータの実用化に期待が集まっています。働きやすさと働きがいは、0か1かではなく同時に実現される事柄なのかもしれません。
皆さんが今直面する企業選択の場面においても、働きやすさと働きがいの両方の視点から、会社を観察してみてはいかがでしょうか。